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あやかし草紙(宮部みゆき)

人の心のすき間にスッと入り込み、行き逢い神はその家に住みついた。開けずの間になった行き逢い神のいる部屋。だが、家族は次々と不幸に見舞われた・・・。「開けずの間」を含む5話を収録。三島屋変調百物語シリーズ5。

女が強く願ったこと。それは、人として母として当然のことだったのではないのか。けれど、行き逢い神はその女の家に住みついた。そして、その家の者たちの心を惑わし、狂わせていった。怖い!怖い!読んでいて背筋がぞっとする。他の話も怖かったが、5編の中でこの話が一番怖く、特に印象に残った。行き逢い神も怖いが、もっと怖いものが人の心の中にあった!
また、本の帯に「シリーズ第一期完結編」と書かれていてどういうことかと思ったが、意外な展開があった。おちかの決断に、これからの幸せを願わずにはいられない。
ともあれ、このシリーズはまだ続くらしい。これから先どういうストーリーになるのか?新たな三島屋変調百物語シリーズに期待したい。
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風神の手(道尾秀介)

さまざまな人たちの人生がからみ合いながら、過去から現在へとつながっていく・・・。いったい、彼らの運命はどこでどう変わっていったのか?微妙なつながりを持つ4編を収録。

余命いくばくもない母が娘に語る高校時代の若き漁師との思い出を描いた「心中花」、小学5年生の”まめ”と”でっかち”の友情と不思議な事件を描いた「口笛鳥」、命の期限が迫る老女が抱えている昔の罪を描いた「無情風」、そして、それら3つの話に登場する人たちがつながっていく「待宵草」。この作品はこれら4つの話で成り立っている。
「こんなふうにつながっていたのか!」
考え抜かれた緻密なストーリー構成に驚かされる。バラバラだったできごとをジグソーパズルのピースのようにはめ込んでいけば、最後には全く異なる物語が完成する。見事としか言いようがない。
人の運命は、ほんのささいなことで大きく変わってしまうことがある。変わらない方が良かったのか、変わった方が良かったのか、それは誰にも分からない。でも、ひとつ言えるのは、どんな人生にも希望の光が輝いているということだ。
この作品は、人生というものをあらためて考えさせてくれた。読後感もよく、読みごたえのある面白い作品だと思う。
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風は西から(村山由佳)

「ごめん。」
そのひと言を残し、彼は自ら命を絶った。
あこがれの大企業に就職し、希望に満ちた未来を見つめていたはずだったのに。いったい彼はなぜ死ななければならなかったのか?遺された者たちは、大企業と闘うことを決意した・・・。

将来は両親が営む居酒屋を継ぐはずだった。その日のために、大学の経営学科で学び、健介は、敬愛する山岡誠一郎が経営する「山背」に入社した。だが、それが悲劇の始まりだった・・・。
健介が就職したのは、ブラック企業だった。達成できるはずもないノルマを課せられ、彼は奔走する。「できないのは自分に能力がないせいだ。」そう思い込み、健介はしだいに自分を追い込んでいく。読んでいて胸が痛い。「山背」は、人を人として扱っていない。「社員がどうなろうと構わない。代わりはいくらでもいる。」そういうふうに考えるとんでもない企業だ。健介は、そんな企業につぶされた・・・。遺された家族、そして恋人の千秋が立ち上がる!
読みごたえがある、内容の濃い作品だった。健介が追い詰められていく描写は生々しく、リアリティがあった。けれど、健介の両親と千秋が「山背」に立ち向かっていく描写があっさりしすぎていて物足りなさを感じた。できれば、もっとじっくり描いてほしかった。それがちょっと残念だった。
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ビブリア古書堂の事件手帖7(三上延)

栞子の母はなぜ姿を消していたのか?栞子と大輔の関係はいったいどうなるのか?シェイクスピアの古書をめぐる謎が解き明かされたとき、真実の扉が開かれた。シリーズ完結編。

シリーズ1〜6には、さまざまな本をめぐる謎があった。栞子と大輔は、何度か危険な目に遭いながらもそれらを解決してきた。そして、最後に残ったのは、栞子の母・智恵子にまつわる謎だった。彼女はなぜ栞子とその妹を置いて姿を消したのか?彼女の追い求めるものは何なのか?シリーズ7では、真実が明らかになる。
重要なカギを握るのは、シェイクスピアのファーストフォリオと呼ばれる稀覯本だ。その本をめぐる攻防戦の描写は、見事だ。いったいどちらに勝利の女神がほほ笑むのか?手に汗握る展開だった。
シリーズ1〜7は、どれも面白かった。本好きにはたまらない作品だ。このシリーズ7は、まさに完結にふさわしい内容だった。読みごたえがあり、読後感も悪くなかった。ただ、このシリーズも最後だと思うと、読み終えてしまうのがすごく惜しかった。できれば、栞子と大輔の物語を別の形でまた書いてほしいと願っている。
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三鬼(宮部みゆき)

やむを得ない事情があったとはいえ、家臣同士の私闘はご法度。掟を破り牢に入れられた村井清佐衛門は、異例の処分で山番士として洞ヶ森村へ発つことになった。だが、その村には恐ろしい秘密があった・・・。表題作「三鬼」を含む4編を収録。三島屋変調百物語シリーズ4。

「怖かった!!」と言っても、怪談ではない。人の心が怖かった。鬼はいる。確かにいる。だが、もともといたわけではない。鬼は、人の心が作り出すものなのだ。恨みや妬み、疑いや嫌悪、そして貧困・・・。それらは人の心を荒ませる。そして、その荒んだ心がこの世に鬼を生み出す。作者は、人の心の陰の部分を巧みに描いている。だが、感じるのは恐ろしさだけではない。救いようのない悲哀さも感じる。「三鬼」では、貧しさゆえの悲劇を描いている。どんなに努力しても報われないこともあるのだ。「迷いの旅籠」では、あの世とこの世を独特の世界観で描いている。「食客ひだる神」では、神の存在を不思議なタッチで描いている。「おくらさま」は、ある娘の憤懣と悲しみの果てに起こった悲劇を描いている。
鬼を生み出すのは、特別な人間ではない。それは、どんな人間でも可能なのだ・・・。
面白いだけではなく、人間の本質を深く考えさせられる読みごたえのある作品だった。オススメです。
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長流の畔(宮本輝)

1964(昭和39)年、東京オリンピックが開催された年、松坂熊吾は66歳になっていた。大阪中古車センターのオープンなどに情熱を傾けるが、会社の危機、家庭不和、愛人の問題と、悩みは尽きない。熊吾の人生の歯車が狂い始めたのか?「流転の海」第8部。

体力や精神力の衰えを自覚する年になってもなお、熊吾はつねに前進する姿勢を貫いた。大阪中古車センターのオープンは、熊吾の努力のたまものだった。だが、会社も家庭もだんだんとうまくいかなくなる。松坂板金塗装がこうなるとは・・・。言葉がない。今までのあの勢いはどうしたのか?熊吾も老いたのだと思わずにはいられない。だが、そんな熊吾には、若い愛人がいる。なぜそんなことになってしまうのか。切れたはずではなかったのか。房江や伸仁のことを考えれば、やっていいことか悪いことか分かりそうなものだ。会社ばかりではなく、家庭もうまくいかなくなるのは当たり前だ。房江の今後は?伸仁の将来は?そして熊吾はさまざまな困難をどう乗り切るのか?
この第8部は、読むのにとても時間がかかった。面白いことは面白いのだが、読んでいてつらい内容が多く、スラスラと読み進めることができなかったのだ。松坂家はいったいどうなるのか・・・?次作・第9部で完結とのことだが、とても待ち遠しい。
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希望荘(宮部みゆき)

「昔、人を殺したことがある。」
老人ホームで暮らしていた78歳の武藤寛二が死ぬ前に告白したことは、周りの人たちに大きな衝撃を与えた。「父は本当に人を殺したのか?」息子である相沢幸司は、杉村に調査を依頼する。そして・・・。武藤寛二の告白には、思わぬ真実が隠されていた! 表題作「希望荘」を含む4編を収録。杉村三郎シリーズ4。

シリーズ3作目の「ペテロの葬列」は衝撃のラストだった。その後の杉村のことが気にかかっていたが、彼は探偵として新たな人生を歩み始めていた。探偵になったいきさつも描かれている。彼は、探偵になる前もなってからも、人の悲哀、人の心の中に潜むねたみや恨み、悪意などと対峙することになる。読んでいて決して心地いいものではない。むしろつらい。できるならこういう話は読むのを避けたいとさえ思う。けれど、これが現実なのだと思う。人生、楽しいことばかりではない。もしかしたら、苦しいことの方が多いかもしれない。それでも人は、現実から目をそむけずに生きていかなければならない。
後味はあまりいいとは言えないが、心に響く読み応え充分の面白い作品だった。
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羊と鋼の森(宮下奈都)

きっかけはほんのささいなことだった。だが、少年はピアノの調律という仕事に魅了された。やがて高校を卒業した彼は、専門学校を出て本格的に調律師の道を歩み始めるのだが・・・。

ひとりの青年がピアノの調律師を目指す。才能があるとかないとかそんなことは関係なく、自分の魅了された世界で生きて行く決心をする。繊細な世界だと思う。それと同時に過酷な世界でもあると思う。ピアノの弾き手を生かすも殺すも調律師しだいなのだと知った。調律はピアノの調整というより、調律師とピアノとの戦いのようだ。食うか食われるか!そこには並々ならぬ緊迫感がある。
作者は調律の世界を透明感のある文章で実に見事に描いている。読んでいると、ピアノの音が聞こえてくるようだ。私が全く知らなかった世界だ。こんな世界もあるのだと、とても新鮮な感動を味わった。読後もさわやかで、心地よい余韻が残る。静かにそしておだやかに、心に染み入る作品だった。
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神さまたちの遊ぶ庭(宮下奈都)

「どうせ北海道で暮らすなら、大自然の中で暮らさないか?」
その夫のひとことで、子供たち3人を連れ北海道・トムラウシに移住した宮下一家。家族5人の北海道の暮らしとは?宮下家の1年間の記録。

トムラウシ。そう聞いてもどこにあるのか分からない人の方が多いだろう。北海道上川郡新得町屈足トムラウシ。本当に山の中の山の中だ。最寄りのスーパーまで37キロ、TUTAYAまで60キロと聞けば、生まれも育ちも北海道の私でさえ驚く!そんな環境に一家五人で飛び込んだ宮下家。その日常は発見と驚きの連続だ。この本に書かれているのは、1年間の暮らしのほんの一部だと思う。言葉では言い表せない苦労もあっただろう。悩むことも多かっただろう。冬の寒さもつらかっただろう。けれど、作者はそういうことはあまり書かないで、北海道の大自然の素晴らしさやトムラウシの人たちとのステキな出会いを生き生きと描いている。こんなにもよく北海道を描いてくれてありがとう!作者にそうお礼を言いたいくらいだ。子供の進学問題などで移住は1年間の限定だった。でも、私は宮下一家がまた北海道に住んでくれるのではないかとひそかに期待している。北海道にはまだまだ魅力的なところがいっぱいあります!お待ちしています♪宮下さん!
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コンビニたそがれ堂(村山早紀)

駅前にある商店街のはずれに、赤い鳥居が並んでいる。そこに、夕暮れ時になると現れる不思議なコンビニがある。コンビニの名前は「たそがれ堂」。大事なさがし物がある人は、必ず見つけることができると言われている。いったいどんな人が訪れるのか・・・?心に残る6編を収録。

自分にとってかけがえのない物や存在が失われてしまったら、どんなに後悔することだろう。どんなに悲しむことだろう。この作品の中には、そんな人たちが描かれている。ほっとするような、また、心がほのぼのとするような話もあるが、切なくて涙が出そうな話もあった。
6編の中で一番印象に残ったのは、「あんず」だった。とても切ない話だ。逝く者と残される者。それが逃れられない運命だとしても、やはり悲しすぎる。でも、一生懸命生きて、充実した一生だったのだなぁ・・・とも思う。短い生涯だったけれど、幸せに過ごすことができて本当によかった。
読後、感動が深く心に染み入ってくる。それと同時に、おだやかなぬくもりも感じる。とても面白い作品だと思う。
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